小説置き場。
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第五部「激しい大地の上」
【第七話「対立」】


ググマドの村は邪将・ニシナ=フリーディアの撤退により開放された。シオン達は村の民に事情を話して安全を説く事に成功したのである。

しかし、邪教の脅威を完全に払拭した訳では無い。サラマンディア島の東側の出発点のヒヒトの港町・アフィーヒの村、そしてググマドは開放したが西部がまだ脅威に曝されている。西部にはグバーバの火山があり、稀にだが絶えず噴火している。噴火の原因と邪教の脅威を振り払うべく、シオン達は次なる目的地のムレームフの村へと向かう。



ムレームフは邪将が不在であった・・・が、アフィーヒでヒルデガルド=クォーソンが撤退し、ググマドでニシナ=フリーディアが撤退した為、二人の邪将が待ち受けてると予想される。


・・・しかし、ニシナは抗戦を主張する一方、ヒルダはサラマンディア島を預かる邪将軍の元へと撤退を主張していた。

前者はググマドで屈辱を味わった上での意見で、後者はムレームフで抗戦する意味が無いと考えてるからである・・・が、本心は戦いを好まないだけなのである。


ヒルダは、争いを好む邪教団の中では異質な存在とも言える邪将なのである。そして、シオンと一戦交えて説得されて心が揺らいでいるのである。邪教に属する事で、平和が訪れるものなのか・・・と。

平和を愛するが邪教と呼ばれる所に属す事は自分にとって正しいのか・・・と言う葛藤である・・・。


ニシナは撤退して早々にヒルダと対面し口論した。今は様子見と言う作戦で二人は動こうとしない。と、言うよりもお互い意見が合わないのでニシナの軍団は抗戦の準備をしてる。ヒルダはヒルダだけ静観しており、ヒルダの部下はニシナに従っており、ヒルダの邪将としての威光はほとんど無いに等しかった・・・。



「(私は・・・私は何の為に邪教に仕えているのでしょうか・・・)」



ヒルダが何故、邪教団に属して何故、邪将に昇進したかと言うと一言で言えば『客寄せパンダ』である。

ヒルダには美しい外見と温厚で母性的な性格、そして弁舌能力に優れている。彼女が邪教を良い風に説き伏せてくれれば、邪教の信者が集まるだろうと考えたのであろう・・・事実、その通りとなったのだが・・・。



「(私は飾りなのですね・・・部下も従わないのであれば、私は孤立して居ないも同然の身・・・)」
「ヒルダ」
「・・・ニシナ・・・何でしょうか?」
「ムレームフの村の士気が低い。アンタ、行って説得して来てくれよ・・・我々に従え・・・とね」
「抗戦論を唱えてる貴女がすれば良いのでは?私はグバーバ山に撤退を主張してますし・・・」
「・・・私の言う事が聞けないって言うのかしら?」
「それは私も同じです。ここで抗戦するよりも、グバーバ山の邪将軍様の所で総力を・・・」
「うるさいよ!!」



ニシナはヒルダの頬を平手打ちする。ヒルダはキッと睨み返す。しかし、ニシナの氷の様に冷たい目を見ると恐怖を感じる。



「アンタも邪将の一人なら、邪将らしく仕事をしなさい!」
「邪将だからこそ、邪将軍様を守ろうとしてるのです!」

「・・・私を本気で怒らせたいみたいだね・・・いいかい?ここを突破されたら、それこそ邪将軍様はお怒りになる!そうなると、どうなるか分かってるのかい?」
「・・・」
「勝手に何処へでも行きな!腰抜け邪将!アンタはそうやって、逃げ腰で震えてりゃいいのさ!!」



怒りを露わにしたニシナはヒルダを突き飛ばして、いかり肩で去って行った。これでヒルダの居場所は完全に無くなった様に思える・・・。



・・・一方、シオン達はムレームフの村へと急ぎ向かっている。盗賊アーカムが戦死したが悲しむ暇も無く、一直線にムレームフの村へと足を速める。



「はぁ・・・はぁ・・・ムレームフって結構遠いのね」
「そうですね・・・この島は馬が居ないので移動に不利ですね・・・ウォルスみたいに魔法でワープしたり出来ないし・・・」
「あと、どれくらいでしょうか?レッド」
「うーむ・・・この調子じゃと、後1時間くらいかもな・・・何せ、この辺は山道になっておるから体力を削られるしな」
「シオンの魔法の羽根で何とかならないの?何か飛ぶ事出来るんじゃないの?」
「アレは、俺だけなんですよ。しかも一瞬だけ高く舞う・・・と言う感じなんで緊急脱出とか潜入とかにしか今の所向いてないですね」
「役立たず」
「ネイナさんこそ、水の精霊魔法で水のある場所へ転移出来るんじゃなかったですか?」
「アレは、行った事ある場所じゃないと駄目なのよ」
「役立たず」
「はいはい・・・二人共・・・喧嘩はそこまでにして下さい。取り敢えず休憩しましょうか」
「そうじゃな・・・あっ、少々危険じゃが近道があった様な・・・」
「え?マジ?先に言ってよ〜」



シオンとクラリスは嫌な予感がした。少々危険と言うのはレッドの範囲でどこまで危険だと言うのだろうか・・・と。



「うむ、あそこの崖から降りれば近道になりそうじゃな・・・と。まだ試しておらんが、ふと思ったのじゃよ」
「・・・」
「・・・・・・10m近くありそうですね」
「木々がクッションとなってくれそうですけど・・・」
「シオン、行ったら?さっき言った羽根で何とかなるんじゃない?」
「そんな無茶な!・・・でも、行けない事無いですね。俺が先に下りて俺が羽根を使って安全に皆を下ろす事が出来れば・・・」
「(え?マジでやるのか?冗談で言ったのじゃが・・・)」
「・・・じゃあ、決まりね。取り敢えずシオンは安全に着地出来るみたいだし、行きましょうよ」
「分かりました」
「(うわ・・・正気か・・・言って後悔したようじゃ・・・)」



レッドの心情と裏腹にシオン達はやる気満々である。




そして・・・・・・・・・・・・・・・20分後。



「近道・・・になったわよね・・・いたたた・・・」
「大丈夫ですか?シオン君」
「短所は俺が一人一人受け止めるって事でしたね・・・凄く疲れましたよ・・・」
「まるで、エレベーターみたいだったわねー」
「(エレベーターって何じゃ?)」
「シオン君だけ体力を使わせましたね・・・申し訳無いですね」
「い・・・いえ、これくらい大丈夫です。それよりも、見て下さい・・・あそこ」



何と強引な近道により、ムレームフの村が見えていた。恐らく50分程の距離はショートカットしたはずである。



「人間、やる気になれば何でも出来るわね〜・・・ウォルスが居たら、絶対バカにされそうだけど」
「そうですね・・・俺も我ながらバカだと思いました・・・でも、バカとかそんな事を言ってる場合じゃないですしね」
「・・・急ぎましょう」



4人はムレームフの村へと向かう。比較的、普通の村でまだ邪教の信徒が治安維持に取り掛かってない状況と見られる。



「ヒルダも通ったのかしら?」
「どうなのでしょう・・・ニシナとやらはここで待つと言ってましたね。二人が待ち受けてるのでしょうか・・・」
「・・・うっ、寒っ・・・!」
「え?今のクラリスさんの言葉は別に寒く・・・」
「違うわい・・・冷気を感じるんじゃよ!」
「・・・感じますね。我々は少しあの寒さに慣れたのかもしれませんね・・・ニシナは居そうですね」



しかし冷気は感じるものの、やけに静かである。村の者達は邪教団を恐れてあまり外をうろつこうとしないが、村は静かだった。



「あそこに見える・・・大きな屋敷、怪しいわね」
「神殿が無いっぽいですね。村長の家なんですかね?」
「行ってみれば分かるでしょう・・・」
「そうね・・・じゃあ・・・」



その時、突然に冷気が強まる。思わず4人は身構える・・・が、冷気の主であるはずのニシナは現れる気配がしない。



「なんじゃ?今のは・・・」
「あの屋敷から吹雪きましたね・・・」
「何かあったんじゃないか?行くか?」



シオン達は屋敷へと駆け込む。近付くと屋敷と言うより洋館に近い物を感じる。中に入ると、丁度足元に人が倒れていた。



「うわっ・・・!」
「この男は・・・?」
「・・・あら?来たのね・・・坊や達」
「ニシナ!」
「誰じゃ?こいつは・・・」
「ここの主よ・・・態度がムカつくから、思わず睨み殺しちゃったのよ・・・」
「何て事を・・・」
「表に出ない?相手してあげるわよ・・・」
「上等ね」
「待て・・・ヒルダはどうした?」
「ヒルダ?あの腰抜け邪将なら、何処かで隠れて震えてるんじゃないかしら?」
「(居ないのか・・・仲違いか・・・?)」



ニシナが冷気を放つと、否応なしにシオン達は外に出される。幸いにも屋敷の周りは畑なので、住民の被害はなさそうである。しかし、ニシナの冷気の強さを考えると、ここも安全と呼べそうにないので、シオンはムレームフの村の外に出る事にした。



「フン・・・いいわよ、ゴチャゴチャした所で私も戦いたくないしね・・・」



ニシナは大勢の部下を引き連れて、同じくムレームフの村から出る。



「レッドは下がってて」
「何の、雑魚くらいなら2・3人相手出来るわい!ワシに任せろ!」
「・・・無茶はしないで下さいよ」
「アーカムの仇を倒してくれるまで、死ねんよ」
「・・・来ます!」



邪教徒達が一斉に襲い掛かる。レッドだけは少し下がり、雑魚に向かう。



「ニシナはどうする?」
「俺が相手します!」
「クラリス、援護してあげてよ。私はレッドの援護するから。火に弱そうだし」
「了解です。シオン君、指示をお願いします」
「・・・俺に炎の魔力をお願いします!」



クラリスは頷くとシオンに火の精霊魔法をかける。するとシオンの体に冷気耐性が付いたのか、冷気を感じ難くなった。



「これで、少しはマシになったはず!行くぜ!」
「坊や・・・今度こそ凍死させてあげるわ・・・!」



ニシナが魔法を唱えると周囲の木々の枝が折れて氷の槍に変化する。そしてシオンめがけて無数の氷の槍が向けられる。しかし、シオンは臆さずに真っ向から立ち向かう。紫色の魔法の羽根を取り出す。



「サジタリース・・・魔弾の射手・・・槍を相殺せよ!」
「・・・(この坊や・・・以前と違う・・・厄介ね)」
「まだですよ!!ファイアボルト!」
「・・・!?」



拡散する魔法の羽根が突如、火に包まれる。クラリスが火の精霊魔法で援護をして来る。



「・・・ちぃっ!小賢しい!」



ニシナは厚手のジャケットを脱いで、向かう火の羽根を全て振り払う。ジャケットの下は厚手のセーターを着込んでいる。



「見てるだけで暑苦しい服装だな・・・こんな温暖化の島国で」
「お黙り!私の服を脱がせた事が、どれだけ恐怖か思い知らせてあげるわよ・・・」
「へへっ・・・脱いでも、そんなに良い体じゃないんだろ?」
「どこまでも人を小馬鹿にする坊やだね・・・味わいな・・・雪の結晶を!」



ニシナが魔法を唱えると、あっと言う間に雪が積もり始める。サラマンディア島で100%有り得ない天候である。
気温によって雪は溶けると思いきや、雪の降る量は尋常じゃない。あっと言う間に周辺が雪景色になり、吹雪も発生し始める。



「くっ・・・邪信徒達が暑苦しい黒衣のローブを着てる理由が分かった気がするよ」
「以前、氷の国のコーランドで氷の使い手達と戦いましたけど、それ以上の相手ですね・・・」
「体の芯まで凍りつけ・・・そして脳裏に景色を残して散るがいい・・・スノーパレード!!」



雪がふわりと舞い上がり、雪で竜巻が発生し始める。視界も悪くなり完全にシオン達は雪風に包まれる。



「うおおお!寒いぃぃぃ!!」
「ちょっと・・・クラリス!何とかしてよ!これじゃ保たないわよ!」
「こ・・・これ程までとは・・・」
「チッ・・・皆さん、俺にくっついて下さい!」
「シオン?」
「ネイナさんとクラリスさんは、防御魔法を!レッドさんは俺を肩車して下さい!」
「はぁ?何する気じゃ?」
「リーダーに従いましょう、レッド」
「う・・・うむ」



シオンはレッドに肩車をされて、何やらブツブツと呟きながら一つの羽根を取り出す。その羽根の色は茶色である。



「山羊の天翔・・・カプリコーン・・・頼むぞ!!」



シオンはレッドの肩に乗って跳躍する。そして茶色の羽根をそっと投げると、羽根は竜巻に呑まれて上昇する。



「ん?また魔法の羽根かい?フフッ・・・当たらなければどうにもならないよ、坊や・・・」
「おい、シオン!このままどうする気じゃ?」
「耐えて下さい・・・とにかく!」
「辛い指令ね・・・待つだけなら、さっきのアーカム救出の時、堪えたって言うのに・・・」
「今度ばかりは、耐え凌ぐしか無いんです・・・でも!」
「分かってるわよ、信じてるわよ・・・」
「私もです」
「乗りかかった船じゃ・・・降りれんのじゃろ・・・お前さんに賭けた!」



雪の竜巻は強く吹き荒れ、シオン達を無情に包み込んで行く。もはや外側のニシナ達からでも姿が確認出来ない程である。

果たして、シオン達に勝算はあるのか・・・?そして投げた茶色の羽根の行方は・・・? (つづく)


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